日記


11 夏休みの自由研究

 ぼくは、目が見えなくなったときのことを調べました。ぼくは今、眼鏡をかけてますが、家でファミコンをやっていると、お母さんに「目が見えなくなるよ!」と怒られます。だから、後々の勉強のために、調べようと思いました。

 最初に、目を瞑って生活をしてみようと思いました。目の見えない人の気持ちになるためです。だけど、いつも使っているはずの部屋なのに、目を瞑ると怖くて、すぐに目を開けてしまいました。

 だから、お母さんに頼んで目を縛ってもらいました。だけどやっぱり怖いので、一人で声を出しながらいました。お母さんがいなくなってしまったらとても寂しくなって、何回もお母さんを呼んでたら、怒られました。

 でも慣れてきたら大丈夫でした。ちょっと家の中を歩いてみました。だけど、壁の場所とかがわからなくて、なかなかうまく歩けませんでした。目の悪い人は大変なんだなあ、と思いました。

 そのあと、することが無くてねっころがってたら、いつの間にか眠ってしまいました。目を瞑っていると、眠くなってしまうらしいです。ずっと目を瞑っているのに眠くならない月光は、とてもすごいと思いました。


12 はじめてのチュウ

 髪型に洋服に靴に、一生懸命気取ってみて駅に向かったあの日。9時の電車に乗らないといけないのに、準備に時間をかけすぎました。約束の時間ギリギリでした。何度も夢見た渡辺さんとのデートが目の前にある今、遅刻するわけには行きませんでした。

 プラットホームに列車が滑り込んできます。なんていう普段使ったこともない言葉を思い浮かべている余裕もありません。発車のブザーが鳴るまで少しでも移動しようと電車脇を走ります。とりあえず乗ってから移動しようなんていう事を考える余裕もありません。

 もう少し、もう少し。はやる気持ちを邪魔したのは一つの顔でした。ドアからホームを覗いた顔。馬鹿の顔。顔はまさにベストポジションで、顔と顔はぶつかりました。

 それが、僕の初キッス。


13 ゴールとスタート

 自分の合格がわかったときのこと、それは緊張から開放され、ほっと胸をなでおろすことの出来た時でした。だけど、本当に大変なのは合格してからだったんですね。受験にしろ、採用試験にしろ、資格試験にしろ、勝って兜の緒を締めよということです。

 そこでは今まで以上の勉強が要求され、天秤に乗せられ他人と比べられ、その信念を叩き込まれました。質問に答えられないと「辞めろ」なんてことも言われました。

 最初の研修と言うのでしょうか、ガイダンスのようなことをするときから、いろいろと厳しいことを言っていました。ここで教育を受けた人間が、世の中に出るとどうしてあんなんになってしまうのか、不思議に思うくらいです。いや、むしろ他人を省みないような教育があのような人間を生み出すのかもしれません。

 だけど夢に向かって歩くため。夢をつかむため。先生。僕はもう、立派な予備校生といえるでしょうか。


14 おじいちゃんのうんこ

 大道芸を見たことがあります。大きな刀剣を飲み込む人、勢い良く炎を吐き出す人、信じられませんね。本当にのどの丈夫な人たちだと思います。風邪を引くだけでのどが使い物にならなくなる人が大勢いると言うのに。全く、信じられません。

 使う道具が特殊なのか、はたまた何か他の科学の力によるものなのか、それは到底分かりません。そこにはタネがあるのかもしれないし、ないのかも知れません。でももしかしたら、人は例えば環境によっては、鉄さえも食べることができる生き物なのかもしれません。

 おじいちゃんは想像もつかないような、大昔から生きているように見える、そんな風貌をしています。きっとこの国が苦しかったときも、立派に生き抜いてきた人で、やっぱり想像もつかないようなゲテモノを食してきた、そんな人なのです。

 ある時、よほどの空腹に絶えかねたのか、それともそういう趣味があったのか、とにかくおじいちゃんは、うんこを食べたのでありました。現場を見たことはありませんが、きっと食べたんだと思います。

 そして例えば、あんなにおいしいフライドポテトをまずいと言う人がいるように、あんなにまずい長ネギをおいしいと言う人がいるように、おじいちゃんにとってうんこはきっと………

 大道芸を見たことがあります。うんこの匂いを吐き出す人。


15 みのもんた殺人事件

 お父さんがいなくなっても、こうして何不自由なく育ってくることが出来たのは、お母さんのおかげだったと思っています。たった二人だけの家族だったけど、とても楽しかったです。その影には、きっとたくさんの苦労があったんだろうけど。

 お母さんの唯一の楽しみはテレビでした。特にお昼の番組は、毎日欠かさず見ていました。その番組によって、わが家の夕食は決まっていました。テレビの話と学校の話と、いつも二人で話していました。

 ある日、家に帰ると、倒れているお母さんがいました。文化祭の準備で、帰りが遅くなってしまった日でした。テーブルには食べかけの、もうぬるくなっているそばがあって、お母さんはそばアレルギーでした。

 テレビの見すぎと言うか、信じすぎと言うか、うっかりしすぎだと思います。


16 防災

 最近は防犯ブザーを女性や小学生、お年寄りまでも持ち歩いているらしいのです。誘拐や痴漢、引ったくりや通り魔、路上では様々な犯罪が行われていますからね。テレビで防犯ブザーの音も聞きました。だからこの間、音が聞こえたときもすぐに防犯ブザーだと分かったんですよ。そんなに遠くはなかったです。きっと事件が起きているのだろう。そう思った僕は、急いで逃げました。


17 おかあさんといっしょ

 母と一緒に、よく電車に乗りました。朝早くに父が出かけた後、母に手を引かれ駅まで行きます。そのまま動物園とか、どこかで遊ぶときもありました。途中の駅でそのままUターンして家に戻るときもありました。

 ラッシュアワーの電車というのは、小さな子供には退屈なものでした。外も見えず、大人の足ばかりが見えて、身動きも取れません。たまに、大人の腕が母のお尻をなでるのが見えたりもしました。電車を降りたとき、急に母の機嫌が悪くなったり良くなったりしたのを覚えています。

 今では僕も、一人で電車に乗ります。満員電車では、よく人と体が密着することがあって、誰かの手が僕のケツに当たることもあります。それをキモいと思っていると、実は女の人の手で、喜んで電車を降りるときに顔を見るとがっかりする。なんてこともあります。つまりはお母さん、そういうことですよね。


18 夏休みの自由研究の続き

 長谷川美恵先生はとても歌が上手です。音楽の時間にたくさん歌ってくれます。クラスの女子の誰よりも、とても上手です。きれいな歌声を目を閉じて聞いていると、とても気持ちがいいです。ぼくはその歌が大好きです。

 白いワンピースからすらっとした足が伸びていて、黒くて長い髪の毛と先生の顔を見ていると、なんだか不思議な気分になってきます。先生を見ていると、胸がすごくドキドキしてきて、ぼくは顔が熱くなっていくように思います。

 だけど、目を開けると、みんなも良く知っている長谷川美恵先生が見えて、ぼくはとてもビックリしました。目が見えないときは、先生がとてもきれいだったので、ぼくは目が見えて運が悪いと思いました。

 目を閉じていると、クラスのみんながかわいいようなかっこいいような気分になります。ずっと目を瞑っている月光は、自分の顔を見なくていいのでいいなと思いました。


19 距離

 中学校以来の親友が交通事故にあったと連絡が入ったとき、その驚きと言ったら無かったです。心配で、心配で、飯ものどを通らないとはまさにこのことだと思います。

 だから、彼が助かったと分かったとき、それはそれはうれしかったのですが、彼女がつまらなそうにせんべいをかじっているのを見ると悔しくて悔しくて。彼がいなくなるということがどういうことなのか、彼女は分かっていないんです。

 過去からのつながりがないから、いなくなることになんの影響も受けないから、生きてるか死んでるかなんて、漫画のキャラ以上にどうでもいいんだろうなあ。


20 適応能力

 「夏にはシャツを脱ごう 冬は重ね着しよう」というように、暑ければ薄着に、寒ければ厚着になるということは、人間にとってあたりまえの行為なのです。

 よくホンジャマカの石塚が冬でも半袖のTシャツを着用し、僕たちを驚かせてくれますが、彼にしてみればただ「暑いから薄着」というだけのことなのです。

 つまり、ピチピチでぱっつんぱっつんのミニスカートを着用するなど、見ているこっちが寒気を覚えるようなことをしている人を見かけることもあるかもしれませんが、彼らはただ、人間としてあたりまえの行為をしているだけなのだと考えられるのです。

 なぜなら、ミニスカートやノースリーブなどの涼しげアイテムは、暑がりな人つまりは太っている人ほど、健康面衛生面を考慮し、着用すべきだからなのです。






































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